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災害とコンパニオンアニマルの社会学

〜批判的実在論とHuman-Animal Studiesで読み解く東日本大震災〜

2019年3月10日刊 第三書館  梶原はづき 著

A5判上製 320ページ 定価 2800円(税別) ISBN978-4-8074-1900-5


この本について
2011年3月11日東日本大震災の発災直後から、動物のために自分が何ができるかを考えていました。リュックにペットフードを詰めて、1頭でも救おうと駆けつけた人もいます。原発事故で警戒区域に指定された地域に、山道を使って入り、置き去りになったコンパニオンアニマルを救出した人もいました。
では、私は何をするべきなのか?
結果、大学院で社会学を学び、この未曾有の大災害を社会学の論文として残すことを選びました。この本は、2018年3月に私が立教大学から博士号(社会学)を授与された博士論文です。
この論文の率直な問いは、飼い主とコンパニオンアニマルは大災害をどう生き抜いたか、彼らが直面した問題は何か、そして私たちはどんな社会を目指せばいいのか、ということです。
この本は、人と動物の関係を探求するHuman-Animal Studiesという学問分野に属しています。また批判的実在論という社会科学論を研究実践に応用することを試みました。テーマとしては、災害社会学でもあります。
各分野の発展に貢献できるよう、最大限の努力をしたつもりです。
社会学者として災害と動物の問題に取り組むこと、それが私のやるべきことだと今は明確になりました。
そして私たちが動物を含めたどんな社会を目指せばいいのかという問いは、これからも私のテーマであり続けます。


本書目次

1 章 人と動物の関係性の社会学 001 
1.1 はじめに 001
 1.1.1 人と動物の関係性を問う 001
 1.1.2 災害の場で立ち現れるもの 002
1.2 論理的アプローチ: 批判的実在論を導入する意義 003 
 1.2.1 批判的実在論とは 003
 1.2.2 なぜ本論文に批判的実在論が有効か 004 
1.3 経験的アプローチ: 批判的方法論的多元主義 005
 1.3.1 批判的方法論的多元主義 005 
 1.3.2 質的方法(インテンシヴな手続き) 006
 1.3.3 量的方法(エクステンシヴな手続き) 007
1.4 本論文の構成 007
2 章 先行研究の中での本論文の位置 011
2.1 社会学のサブフィールドとしての
   Human-Animal Studies(HAS)の出現 012 
 2.1.1 Human-Animal Studies(HAS)は
     いかにして形成されてきたのか 012
 2.1.2 アメリカ社会学会の中でのサブフィールドの確立  015
 2.1.3 社会学における
     Human-Animal Studies(HAS)の到達点と課題 024 
 2.1.4 飼い主とコンパニオンアニマルの関係性に焦点を当てる研究 025 
2.2 災害と動物 029 
 2.2.1 海外の災害と動物に関する研究 030 
 2.2.2 日本の災害と動物に関する研究 033 
2.3 批判的実在論 035 
 2.3.1 批判的実在成立の経緯 036 
 2.3.2 批判的実在論の特徴 042 
 2.3.3 定理から応用へ 批判的実在論の調査研究への接続 046 
2.4 本論文の位置 049
3 章 研究の方法 051
3.1 批判的実在論の応用 051 
3.2 インテンシヴな方法 051 
 3.2.1 半構造化インタビュー 051 
 3.2.2 参与観察 055 
 3.2.3 その他のフィールドワーク 056 
3.3 エクステンシヴな方法(アンケート調査) 056
3.4 研究の妥当性 058 
3.5 倫理的配慮 060
4 章 津波災害をコンパニオンアニマルと共に生き抜く 063
4.1 災害という非日常から関係性を照射する 065 
 4.1.1 人と動物の相互作用はあり得るか 066 
 4.1.2  意味の多様性 067 
4.2 津波を経験した2 人のライフストーリー 068 
 4.2.1 すべてバロンを中心に動いた鈴木良一さんのライフストーリー 069 
 4.2.2 ライフストーリーから見えてくる鈴木さんとバロンの関係性 084 
 4.2.3 娘が大学に行けば犬と二人暮らし 
     村上悟さんのライフストーリー 086 
 4.2.4 ライフストーリーから見えてくる村上さんとクッキーの関係性 096 
4.3 語られる関係性 097 
 4.3.1 子どもの代わり/ 毛皮を着た子ども——交差する意味 098 
 4.3.2 死に直面したとき 102 
 4.3.3 コミュニティの中に動物がいる意味 106 
4.4 コンパニオンアニマルと生き抜くための戦略 109 
 4.4.1 行動から関係性を読み解く 109 
 4.4.2 飼い主の行動の4 つの側面 135 
4.5 生を紡ぐコンパニオン 136 
5 章 原発事故の災禍をコンパニオンアニマルと惑う 139
5.1 原発事故を経験した飼い主のライフストーリー 140 
 5.1.1 自分が今生きていることの意味がわからない    
     佐藤ヒトミさんのライフストーリー 142
 5.1.2 ライフストーリーから見えてくる佐藤さんと動物たちの関係性 156 
5.2 グローバリゼーションの外側にある関係性 159 
 5.2.1 「ペット」ではなく「ただの動物」でもなく 159 
 5.2.2 世界の境界が決壊するとき 166 
 5.2.3 不確かな現実のアンカーとして 175 
5.3 コンパニオンアニマルと世界の終わりの淵に立つ
   ——行動から関係性を読み解く 179
 5.3.1 飼い主たちの行動の3 つの側面 179 
 5.3.2 飼い主たちの行動の複雑さ 196 
 5.3.3 原子力災害の本質的な問題 205
 5.3.4 「動物の幸せに対するルーラルな哲学」 219 
5.4 大地と繋ぐコンパニオン 228 
6 章 災害という日常が壊れた場所で立ち上がる関係性 231
6.1 津波災害と原子力災害——関係性の違いを生むもの 233 
 6.1.1 導出された2 つの概念 234  
 6.1.2 差異はどこからくるのか 239 
6.2 アクチュアルな領域での抑圧—— 共通していたものは何か 242 
 6.2.1 津波地域 243 
 6.2.2 原発事故地域 244 
6.3 根底にある構造 249 
 6.3.1 コンパニオンアニマルの生命の価値の矮小化と崇高化 249 
 6.3.2 日本社会における人と動物の関係性の捉え方 250 
6.4 なぜ人間は別の種と結びつき共に暮らすのか 257 
7 章 結論 259
7.1 現代日本社会における人と動物の関係性——我々の考える「社会」とは何か 259 
7.2 本論文の限界と今後の展望 265